ゆるゆ会

詩、小説。もそもそと書きます。

8月16日

テーブルの上がステーキ、ハンバーグ、ラムチョップ、ポークジンジャー、タンドリーチキンといった多種多様な肉料理で埋め尽くされていく様は正に圧巻で、それこそどこかの王宮に住む娘が気ままに食べたいものをコックに作らせているようだった。

 

勿論そんな成金の気まぐれやわがままを聞き入れて作られたものではなく、
僕のお金を代価として作られた等価である料理達が次々と彼女の口の中に運ばれていく。
左手にはフォーク。右手にはフォーク。ダブルフォークだ。マナーがあったものではない。
グサッ、パクッ、モグモグ、グサッ、パクッ、モグモグ、グサッ、パクッ、モグモグ、ングング。
鳥、牛、羊、水、豚、牛、羊、豚、水、水、牛、豚、鳥、羊、水、鳥。
リスのように膨らんだ頬の腫れを直すために合間合間で水が入っていく。その顔がキュートで、
僕の心を刺激するものであったし、水が無いわよ、と目で指図してくるところもまたキュートであった。
彼女はこの時間蛇になったのだ。大地をも飲み込む蛇。ヨルムンガンド

だけど流石にそれは言い過ぎで、料理は余っていた。大量に余っていた。
彼女は蛇から人間へと戻り始めているようだ。
フォークすらも飲み込んでしまって、喉や食道やらを傷つけながら進むフォークが胃に穴を
空けるのではないかと心配した僕が、彼女の代わりに蛇になった。しかし僕は大地を飲み込むことも、
ダブルフォークで、グサッ、パクッ、と食べることも出来ない。
右手に幼い頃に厳しく教わったおかげで正しい持ち方をすることが出来る箸を構え、
ゆっくりゆっくり、それこそ牛のように、亀のようにのろく食べた。

彼女はその時間が好きであるようだった。
にこにこと僕の顔を見つめながら、餌を与えるように肉に突き刺さったフォークを僕の方に向ける。

僕はそれを拒絶することなく受け入れ、口を大きく開けガブリと齧り付く。
その食べ方が気に入ったのか彼女はまたブスリと肉をフォークで突き刺し、僕のほうにずいっと向け、
僕はまたガブリと齧り付く。
僕もまた、この時間が好きだった。

そんな時間が10分ほど続いたところで急に彼女は吐いた。盛大にぶちまけた。
どうやら胃の中は多種多様な動物を飼育することは出来ず、海の中で生かすことも出来ず、
来た道を戻らせるという結論に達したようだった。

僕はその様をじっと見ていた。彼女が嘔吐するたび僕は体が痺れた。
彼女の嘔吐は芸術すら感じるほどであった。でもその嘔吐物を食べたいとは思わない。
彼女から出たものは僕は食べない。
絶対に食べない。
テーブルの上ではパレードが起こったみたいに悲惨だった。
お店では大騒ぎとは行かないほどの騒ぎが起こった。
皆が僕らを眺めている中、僕は彼女を見つめ続ける。

彼女は苦しそうにテーブルの上にげーげーと嘔吐し、ふと顔をあげ、僕の顔を睨むように見つめ、
ようやく出し切ったと思いきや、またげーげーと胃液を出し始める。
濁流に飲まれながら、彼女が食べている間に僕が作ったナプキンの折り鶴達は、
次々とテーブルから地面にむかって、真っ逆さまに赤色のような赤銅色のようなカーペットの敷いてある床めがけて落ちて行った